ロング・ディスタンス
「で、あんたは退院したら、長濱さんに会いに離島に行くってわけね」
 ベッドサイドで成美がたずねる。
 面会謝絶が解けてから、彼女は休日に栞の病室へ見舞いにきてくれた。
 彼女はベッドの横にあるパイプ椅子に腰を掛け、友人のために持参したリンゴをむいてくれている。栞は近況を彼女に話していた。

「うん。主治医の先生が来月には退院できるだろうっておっしゃるから」
「あの人と別れたと思ったら、急に長濱さんに転んじゃうなんてびっくりしたよ」
「そのことは自分でもよくわからない。でも、長濱先生からお花をいただいた時、あの人のことが急になつかしくなっちゃったんだ。私って気まぐれだよね」
「あんたは長濱さんから花をもらってうれしかったんだね」
「うん。彼には結構ひどいことをしたのに、こんな私を心配して花をくれるなんてさ」
「彼はまだあんたに未練があるんじゃないの? だからふられた後でも、病気にかかったあんたに花を届けてくれたんじゃないかな」
「それはどうかな。外科で先生に会った時『花を贈ったのにはたいした意味はない』って言ってたもの。彼はただ優しいんだと思う」
 あまり過度な期待をして、それが裏切られるのが怖い。
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