ロング・ディスタンス
「もしもし栞ぃ。私、成美だけど」
「あ、成美。こんばんは」
「夕飯は食べた?」
「食べたよ。成美は?」
「食べた。今、光太郎さんがお皿洗ってくれてるから、栞んとこに電話しようと思ったんだ。メール見たよ。ついに長濱さんのいる島に行ったんだぁ。どうだった?」
「長濱先生、いきいきしてた。もうすっかり向こうの人になっちゃってたよ」
「ふーん。それって栞的には寂しい? 遠い人になっちゃったって感じじゃないの?」
「うん、まあ、確かに私の知らない世界の人になっちゃうのは寂しいけど、しょうがないよ。就職は彼にとっては門出だもん。あそこで一生懸命がんばって立派なお医者さんになってほしい」
「で、彼とはどんなこと話してきたの?」
「うん。私、彼に謝ったんだ。彼を傷つけてしまったって言ったんだ。神坂先生との関係も完全に終わらせたって言った。あの先生との関係は間違いだったって言った。とにかく思いのたけを洗いざらい話したよ。そうしたら長濱先生はわかってくれた」
「そう。良かったじゃない」
「うん。先生はいつでも優しい人なんだ。だから私がやったすごく嫌なことだって許してくれるの」
「そう。じゃあ、彼とはまた付き合えそうなの?」
「わかんない。今の時点で言えることは、先生はただ私を許してくれたということだけ。彼が私を去年の夏のあの時にみたいに受け入れてくれるかどうかはわかんない。でも私、『来月もまた遊びにきていいですか』って訊いたの。先生は新しい職場で忙しくしてるから、一か月経ってからだったら構わないかなって思って。そうしたら『いいよ』って言ってくれた」
「そっか。立場が逆転したよね。前は彼があんたを追ってたのに、今度はあんたが彼を追ってる」
「ハハハ。そうだね。先生も私の方から寄ってくるなんて驚きだって言ってた」
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