ロング・ディスタンス
 コンパクトカーが集落の中にあるアパートの前に停まった。
 日本家屋の住宅地の中に、一件だけ築浅の小ぎれいなアパートが建っている。太一が島から貸し与えられている部屋だ。
 彼の部屋は一階の角部屋だ。

「さあ、どうぞ」
 玄関のカギを開けて、太一が栞を中へ招き入れる。
「お邪魔します」
 玄関にはモカシンとスニーカーが並べて置いてある。彼は出勤する時はどんな靴を履いていくのだろうかと思った。
「メールが来てから急いで部屋の掃除をしたよ。間に合って良かった」
「気を遣っていただいてすみません」

 栞が男性の部屋を訪れるのは初めてことだ。少しだけ緊張した。
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