ロング・ディスタンス
「昨日の夜、楽しかったです。辻堂先生と美加子さんにお礼を言っておいてください」
「そう。喜んでもらえて良かった。普段からよく辻堂先生のお宅で夕飯をごちそうになっているんだよ。独り者にはありがたい」
「それは良かったですね。長濱先生は食べるものには困っていないって、美加子さんが言ってました。大家さんのお嬢さんも差し入れをしてくれるんですって?」
 栞はちょっと気になっていることについて触れた。
「あ、それ聞いたの? 弱ったな。誤解しないでくれよ。あの子はただのご近所さんなんだよ」
「わかっています。先生はこの島では人気者みたいだから、モテる男は辛いですよね」
 栞は冗談めかして言う。
「うわ、よしてくれよ。もう、美加子さんたら余計なことしゃべらないでほしいな」
「先生が来てから、島の若い女の子たちが色めき立ってるって言ってました」
「あのね、児島さん。ここでは医者が珍しいからパンダみたいに珍重されるんだよ。3月までいた研修先にみたいに、ペーペーの研修医なんか相手にされない世界とは違うんだ。でも、俺は肩書目当ての女とは付き合いたくないの。過去にそういう女と付き合って痛い目を学習済みなんだよ」
「前に付き合っていた人?」
 そういう話は初めて聞く。
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