ロング・ディスタンス
 栞は太一が最後に言っていた言葉を反芻している。
 これまで神坂との恋愛で異常な状況に耐えてきた。

 滅多に会えない状況。
 隠れて会わなければいけない状況。
 二人の関係を周りの人々に公表できない状況。
 相手が栞より自分の家族を優先させる状況。
 いずれ関係を終わらせなければならない状況。
 そして、授かった子をあきらめなければならない状況。

 そんな理不尽な状況にずっと甘んじていたから、その時代と比べると、太一とどんなに離れて暮らしていても今は天国のように思える。仕事の都合で誕生日を一緒に祝えないなんていうのは些末なことのように思える。去年、神坂に誕生日を忘れられたことを思い出すと、太一がこの日を覚えてくれていて、しかもプレゼントまで送ってくれたことがとてもうれしく感じられる。 

 我慢なんてしていないと思う。
 それとも無意識の内に我慢をしているのか。
 わからない。
 男の人はちょっとわがままなくらいの女を可愛いと思うらしいけれど、自分ももっとわがままを言うべきなのだろうか。
 わからない。
 恋愛マニュアル本を読むと色々な助言が書いてあるけど、結局何がいいのかはわからない。
 ただ、一つ言えることは彼女が太一を好きだということで、お互いに相手を大切にしていける関係を築きたいということだ。そのために相手を思いやって行動したいのだ。
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