ロング・ディスタンス
 また閃光と共に轟音が鳴り響いた。
「栞ちゃん。あのさ。今夜はうちに泊まってけば」
 太一がたすねる。
「いいんですか」
 栞は彼の顔を見る。
「俺は全然いいよ。君さえ良ければさ。うちにあるもの貸すし」
「あ、はい。じゃあ、お言葉に甘えてそうします。宿には電話を入れておきます。この天気だし、事情はわかってくれるでしょう」

 栞はシャワーを浴び終わり、浴室から出てきた。
 長身の太一から借りたTシャツはダブダブで、ハーフパンツは紐をしぼることによってかろうじて腰に留まってくれている。
 彼女がいぬ間にリビングではソファの位置がずらされ、中央に客用布団が敷いてあった。
「もう一組お布団があったんですね」
「うん。お袋もここへ来たいって言ってるからさ、用意しておいたんだ」
「そうだったんですか」

 栞にお休みのキスをしてから太一は寝室に入った。
 彼女も部屋の電気を消して、布団の上に横たわった。
 建物の外から激しい風雨の音が聞こえてくる。旅の疲れもあることだし、その音を子守歌にして眠ることになるだろう。

 それにしても太一は紳士的な人だ。彼女が自宅に泊まるといっても、当然のように彼の寝室とは別の部屋に寝床を用意してくれた。彼は今時貴重なほどの紳士か、はたまた慎重な人なのか。彼の考えは知る由もない。
 太一のことをそんなふうに思いかけていた。
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