ロング・ディスタンス
霹靂
 休日の昼下がり。成美は栞を自宅へ招いた。
 成美たち夫婦は市立小学校の教員なので、自治体の公務員用官舎に新居を構えていた。二人は家賃を節約しながら、家を建てるための貯金をしている。

 成美の夫の光太郎はリトルリーグの大会の応援に行っていて不在だ。だから、二人は心置きなく女同士の会話を楽しむことができた。

 成美はリビングに栞を通した。
 退院以来久々に見る友人は、病院にいた頃と比べるとかなり健康的な様子になっている。それどころか、昨年の春先に会った時よりもはるかに明るい顔をしている。あの時はなんだかしなびたような印象を受けたが、今の友人は若い女が持つ特有の香気を放っている。目に輝きが戻っている。これが恋のなせる業なのかと成美は感心した。
 長濱が栞を再び受け入れてくれて本当に良かったと思う。彼女の彼に対する一途な思いを、懐の広い彼が受けとめたのだろう。新しい恋が病気に対する特効薬だった。
 もしも成美が彼だったら、自分にすげない仕打ちをした女を許せるだろうか。彼の優しさや男としての器の大きさを思うと、成美は感慨深い気持ちになる。これまで栞が不幸な経験をした分、二人にはこれからも仲良くやっていってもらいたいと切に願う。
 不倫していた頃の栞は気持ちが荒み、嫌な女だった。でも、今の友人は毒が抜けたというか、健康な心を取り戻したように見える。彼女が病気になったからこそ不倫相手が馬脚を現したのだが、そうでなかったら今もまだ不毛な関係は続いていただろう。そう考えると、皮肉にも入院が友人の人生における一つの転機になったと言える。栞が大学病院を辞めてしまったのは残念なことだったが、今の仕事を続けてなんとか正規職員に昇格してほしいものだ。
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