ロング・ディスタンス
 卒業式の日は二重の意味で涙にくれた日だった。高校生活にと仲間にさよならする悲しみと、恋に破れた悲しみに栞は浸っていた。どちらかといえば後者の感情が強かったはずだ。
 成美は栞を自宅に呼んで夜遅くまで二人だけの卒業パーティーをしていた。「ヤケ酒だ」とこっそり仕入れた缶チューハイを空けていた。今ではいい青春の思い出である。
 振り返れば、甘酸っぱい青春の思い出が次々と脳裏によみがえる。栞の恋については、「のび太なら絶対彼女いないから脈あるよ」なんて、彼には失礼な応援の仕方をしていた。栞みたいなきれいな子なら、もしかしたらのび太と付き合えるかもしれない。彼女が学校を出てしまえば、彼が彼女と付き合っても差し支えないだろうと考えていた。その反面、のび太なんかに自慢の親友はもったいないと思っていたけど。

 考えてみれば、当たり前のこととはいえ、のび太はまともな大人だった。彼は生徒に告白されたからといって手を出すような不届き者ではなかったし、付き合っている恋人に忠実だった。そういう意味では好きになるに値するような男性だったと思う。
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