ロング・ディスタンス
「もう今後は俺の家には来ないでほしい。本当は君の親御さんにも話したいし、こうなってはこの部屋からも退去したいけど、どうするかはまだ保留にする」
「いいよ。そうしたければそうすればいいじゃん。親にでも誰にでも言えばいいじゃん」
「君は自分のしたことの重さがわかっていないのか! これは嫌がらせ行為だぞ! ここまで言うのは酷かもしれないが、俺がその気になれば訴えだって起こすことができるんだぞ!」
 太一は語気を荒げる。
 美菜は彼に背を向けていたが、振り返って彼の顔を睨みつけた。
「いいよ! 訴えたけりゃ訴えればいいじゃん! あたしはね、先生がこの島に来てから先生のことがずっと好きだったの! 先生がいつも優しくしてくれるからうれしかった! あたしの差し入れるものを『美味しい』とか『ありがとう』って必ず言ってくれるから、すごくうれしかったの! 今まで島の人で、あたしのすることを褒めてくれる人なんていなかったから! あの人が先生の部屋に泊まっていった日の朝、二人がどんなことをして過ごしてたんだろうかなんて、考えるだけで気が狂いそうだった! あなたが手に入らないのなら、中途半端に好かれてるくらいなら、いっそ嫌われた方がマシなの!」

 二人は数瞬、互いの顔を見合っていた。
 二人とも、怒りというよりも悲しみの表情を浮かべている。
 それから、美菜が「さよなら」と言ってアパートから出ていった。
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