ロング・ディスタンス
「栞ちゃん! いるのなら出てきてほしい!」
玄関ドアの向こうで太一が彼女のことを呼んでいる。ご近所のこともあるから、あまりそこでそういうことをしないでほしい。
仕方なく、栞はモニターのスイッチを再び入れた。
「太一さん。私です」
「栞ちゃん。俺だ。君が電話に出ないから直接ここへ来たんだ」
「仕事はどうしたんですか」
「盆休みを取った」
そういえば世間はお盆だった。栞も明日、家族のもとへ帰って皆で父親の供養をする予定だ。
「栞ちゃん。お願いだ。ここを開けてくれ。俺の話を聞いてほしい。明日の朝にはもう帰らなきゃいけないんだ」
ドアの向こうで太一が懇願している。
そう言われても、今の栞には彼と対峙する心の準備ができていない。
「せっかくだけど、私。まだあなたとお話をする気分じゃないんです。遠くから来てくれたのに申し訳ないんですけど、今日は引き取ってもらいたいんです」
「どうしてもダメなのかい?」
太一の問いに、栞はモニター越しに首肯する。
液晶画面に彼のがっかりした表情が浮かぶ。
「わかった。君に何かを強いるのは僕の性分に適わない。今日はもう帰るよ。でも、一言だけ言わせてほしい」
「何?」
太一は何か言い訳を言うのだろうかと栞は思った。
でも違った。
彼は「嫌な思いをさせてごめん」と言ってアパートを去っていった。
玄関ドアの向こうで太一が彼女のことを呼んでいる。ご近所のこともあるから、あまりそこでそういうことをしないでほしい。
仕方なく、栞はモニターのスイッチを再び入れた。
「太一さん。私です」
「栞ちゃん。俺だ。君が電話に出ないから直接ここへ来たんだ」
「仕事はどうしたんですか」
「盆休みを取った」
そういえば世間はお盆だった。栞も明日、家族のもとへ帰って皆で父親の供養をする予定だ。
「栞ちゃん。お願いだ。ここを開けてくれ。俺の話を聞いてほしい。明日の朝にはもう帰らなきゃいけないんだ」
ドアの向こうで太一が懇願している。
そう言われても、今の栞には彼と対峙する心の準備ができていない。
「せっかくだけど、私。まだあなたとお話をする気分じゃないんです。遠くから来てくれたのに申し訳ないんですけど、今日は引き取ってもらいたいんです」
「どうしてもダメなのかい?」
太一の問いに、栞はモニター越しに首肯する。
液晶画面に彼のがっかりした表情が浮かぶ。
「わかった。君に何かを強いるのは僕の性分に適わない。今日はもう帰るよ。でも、一言だけ言わせてほしい」
「何?」
太一は何か言い訳を言うのだろうかと栞は思った。
でも違った。
彼は「嫌な思いをさせてごめん」と言ってアパートを去っていった。