ロング・ディスタンス
 部屋の窓から、彼が肩を落として去っていくのが見える。
 彼は振り返って、切ない目をして2階にある栞の部屋の方を見上げる。
 そしてまた向き直って、通りの先へ歩いていく。
 彼の後ろ姿が住宅街の中に消えた。 

 栞はたまらない気持ちになって携帯を手に取る。
 彼女は太一の携帯に電話をかけた。
 彼はすぐに応答した。
「もしもし栞ちゃん」
「もしもし太一さん。私、栞です」
「どうしたの?」
「私、今、部屋着を着ていてお化粧もしてないから、すぐには出られないの。でも30分待ってくれたら外に出る準備ができるから」
「そう! じゃあ、俺はどこか近くで待っていればいいの?」
 太一の声が弾む。
「はい。最寄駅の近くにある『ミモザ』っていうコーヒーショップで待っててくれませんか。駅前に行けばすぐにわかる店だから」
「わかった! そうする」
「はい」
 栞は携帯を切った。
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