ロング・ディスタンス
 児島家へのお呼ばれはお開きになった。
 栞は太一を実家の最寄駅まで送ることにした。今夜、栞自身は実家に泊まっていくつもりだ。

 駅まで行く途中、彼女は先刻の気まずさを引きずって何も話すことができなかった。食事の席で母親が暴走した時は、穴があったら入りたい気分になった。何も考えずに母親の誘いにのって太一を実家へ招待してしまったけれど、やっぱりやめておけば良かった。
 恋愛マニュアル本で読んだことがあるが、交際中、男の人は結婚をチラつかされると逃げたくなるのだという。そりゃ、栞だっていつかは好きな人と、できれば今付き合っている太一と結婚したい。でも相手に逃げられては元も子もない。

 恋愛マニュアル本によると、男の人は干渉されることも嫌うそうである。だから、栞は太一にメールを送りすぎないように心掛け、島に行くのもせいぜい月に一回にとどめておこうとしている。男の人は自分を自由にしてくれる女が好きだから、彼女は彼に対してそうありたいと心掛けてきた。
 でも、正直に言うと美菜のことは嫌だった。そういう不満を言えずに我慢しているのはやはり心に悪いことだった。恋愛マニュアル本が説く理論をどのように解釈してどこまで実行すればいいのか。さじ加減が難しい。
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