ロング・ディスタンス
「さっきはありがとう。楽しかったよ。家族の人たちにお礼を言っておいてね」
 太一が会話の口火を切った。
「はい。そう言ってもらえるとうちの家族も喜ぶと思います」
 そうは言うものの栞の心境は複雑だった。さっきは太一だって彼女の母親の言葉に戸惑ったに違いない。
「あのさ、栞ちゃん。将来のことどう考えている?」
 太一がこんなことを訊いていくる。まさか先刻の話題に触発されたのだろうか。
「将来、ですか?」
 思いもよらない質問に栞は戸惑う。
「そうですねえ……。さっきお母さんも言ってたけど、契約職員から正規職員に昇格できたらいいですよね」
「昇格できそう?」
「うーん。確約があるわけではありませんからわかりません。仕事を頑張っていても、ポストに空きがなければ昇格できないでしょうし。今の職場にいる50代の職員さんたちが退職するまで空きがないんじゃないでしょうか」
「となるとそれは数年先のことになるのかな」
「はい。それも上手くいけばの話です」
 栞は今の状況を正直に話した。資格があるといっても、今どき正規で仕事を転職することは難しい。
「そっか」
「はい」

 少しだけ沈黙する。
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