ロング・ディスタンス
 実家から近いので駅にはすぐに着いてしまった。時刻はもう8時45分を回っていて、お盆の駅前は人影もまばらだ。太一は券売機で電車の切符を買った。
 電車が来るまであと少し時間があるので、二人は改札口の近くで話し込んだ。

「ねえ、栞ちゃん。いっそ島に引っ越してくる?」
 太一がたずねた。
「私も太一さんがいる島に住むんですか?」
「うん。離れ離れは何かと不便だ。それにこの前みたいにあらぬ誤解をされてしまうことだってあるし」
「だって、あれはああいう場面を見せつけられたから! でも、私は基本的に太一さんを信じています」
「そう。俺を信じて待っていてくれるのはうれしいけど、俺は栞ちゃんと離れ離れで暮らしているのは寂しいよ。都会っ子の君を何もない島に引っ張っていくのは忍びないけど、俺は君と一緒に暮らしたい」
 太一は栞の目をのぞき込んでくる。彼女の胸が高鳴る。
「それって、もしかしてプロポーズ?」
 栞がたずねる。
「うん。そうだよ。俺もいい年だしね。そろそろ身を固めたいんだ」

 こんな時、何て返したらいいかわからない。もちろん、うれしいのはうれしいのだけど突然の質問すぎて栞の頭は真っ白になってしまう。
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