ロング・ディスタンス
 会ってただ抱き合うだけの関係。他に行く場所もなく他にすることもないのだから必然的にそういう関係になってしまう。そこに愛があるのかどうかという問題については、栞は「ある」と信じたかった。愛があるのだから自分を抱くのだと思った。事実、彼は彼女に対する好意を口にしてくれることがある。そう頻繁ではないけれど。

 栞はそんな心もとないロープにつかまっていたかった。もしもそのロープが切れてしまったら、彼女の自我は脆くも崩壊してしまうだろう。それほどまでに固く自分の恋愛感情を握りしめている。

 最近ではもう、ベッドの上で、神坂に機械的に腰を疲れるだけ。その行為に終始している。行為が終わると、仕事で疲れているからと彼はそそくさと着替えて家路につく。二週間に一度しか会えない逢瀬は、そんな形で続いている。余韻も何もあったものではない。

 それでも彼に抱かれていると心が満たされた。
< 30 / 283 >

この作品をシェア

pagetop