ロング・ディスタンス
 結局、いくら待ってもメールが来ないので、自宅に帰ってきた。
 化粧を落とし、部屋着に着替えたところで、やっと神坂からメールが返ってきた。まだかまだかと待ち受けていた返信だ。待ち合わせの時間から数時間が経過していた。
「長女が熱を出した。女房は夜勤だし、そっちの面倒を見なければいけなくなった。連絡が遅くなってすまない」
 携帯のスクリーンにはそのような文章が書かれていた。本来なら、彼の子どもを気遣うメールを返すべきなのだろうか。そんな優等生のような気持ちにはなれない。栞は待ちぼうけを食らった自分のいら立ちをぶつけた。
「あそこでずっと待っていたんですよ。来られないなら一言連絡ぐらいよこしてくれたらいいじゃないですか」
 神坂がまた返信を送ってきた。
「子供が急病になったんだ。メールを送る余裕はなかった。それどころじゃなかったんだ。すまない。今度、必ず埋め合わせをするから」
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