ロング・ディスタンス
 栞はそれ以上返信をしなかった。彼女はベッドに横たわり、携帯を床に放り投げた。
 悲愴な覚悟でホテルに向かったらこのザマだ。子供が病気で大変なのはわかるけど、デートのことなんかさっぱり忘れられてしまった。メールで一言連絡を入れる時間がないわけがない。ほんの十数秒の作業だ。
 バカみたいだった。
 完全に足下を見られている。相手はデートをすっぽかしても、舌先三寸で謝ってごまかせば済ませられると思っている。そんな性格は前からわかっていたけれど、彼に誘われると尻尾を振って出かけてしまう安い自分がいた。
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