ロング・ディスタンス
 栞は中学生の頃に父親を病気で亡くしていて、それ以来母子家庭で苦労して育ってきたから、彼女には是非とも自分のように幸せになってほしいと成美は思っている。

 成美と栞は地元の中堅進学校で出会った。四年制大学へ進学する生徒が多い中、栞は家庭の事情で短期大学へ進学した。彼女は在学中に医療事務の資格を取って、卒業後は市内の大きな大学病院に事務職員として就職した。確かにそこは女性ばかりの職場のように思えるが、だからといってそんなにご縁がないものなのだろうか。とりわけ栞のようなきれいな女の子に。

 高校時代に男友達が教えてくれたことがあるが、クラスの数名の男子が栞のことを意識していたようだ。愁いを帯びた大きな瞳と長い黒髪が魅力的な美少女だった。二十歳を過ぎた時、まるで大輪の花が咲いたように彼女はますます美しくなった。こんなきれいな子ならさぞかし素敵な王子様と巡り合えるのではないだろうかと、成美は友人がうらやましかったものだ。
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