ロング・ディスタンス
「就職してから今まで誰とも付き合ったことないの?」
 成美がたずねる。
「うん、そうなんだ。モテないんだよ、私」
 栞が目を伏せて、微かに笑う。
「モテないって……」
 そんなこと信じられなかった。高校時代はあれほど人気があったのに。
 もしかして恋愛自体に興味がないのだろうか。そういう子も稀にいると聞いたことがある。
「そうだったんだ。ちょっと寂しいね。ねえ、栞。もし良かったら私、職場の同僚を紹介してあげようか? 真面目で気さくな先生がいるんだよ」
 成美はお節介を焼こうとする。
「ううん。いい。そういうの興味ないから」
「そう」 
 やっぱり栞は恋愛には興味がないようである。これだけの容姿だけに、ちょっともったいないと成美は思った。

 それから二人は他愛ない話に興じていた。
 お互いの仕事や家族のこと、高校時代の同級生の噂を話していた。女の子は成美のようにちらほら結婚する子が出てきた。中には、高校時代から付き合っているカップルが結婚に至るケースもあった。

 友人はこの6年間で何か変わったことがあったのだろうかと成美は思った。それなりにキャリアは積んできたと思うが、成美の仕事のように行事や節目があるわけではない。友人は20代の花の時期を、職場とアパートを行き来するだけで過ごしてきたのだろうか。もしそうだとしたら、かなり寂しい。家庭の主婦になるとはいえ、これからは週末に彼女を遊びに連れ出してやろうかと思った。
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