鬼神姫(仮)
「学校に行く必要ねぇなら、転校手続きと無意味なだけだったじゃなぇかよ」

陽が煎餅を頬張りながらぼやくように言った。

「俺、自分の分だけじゃなくて、こいつの分までやったんだぜ?」

陽は銀の顔を指差しながら雪弥に言ってきたが、それを自分に言われてもどうしようもない。雪弥は壁を一切感じない扱いにどう反応してよいものか戸惑った。

普通に接して欲しい。そう言ったのは紛れもなく自分なのだが、いざこうして接せられると、今までにないことにどうしても戸惑いが生じる。

「んなの、勝手に陽さんがやっただけじゃないすか」

銀は悪態をつくように言い、陽の前にある煎餅を取った。

「あ、それ、俺が買ってきたんだぞっ?」

「ケチ臭いこと言わないで下さいよ、先輩」

がやがやと賑やかというよりは、正直五月蝿い。雪弥は少しうんざりとした様子で三人を見やった。巴は殆ど口を開かずにいるのだが、二人のやり取りを気にする様子は少しもない。

「……何故、私の部屋なのです?」

雪弥は畳に零れ落ちる煎餅のカスを目にしながら訊いた。

朝、食事を済ませた折、緋川が彼等に学校に行く必要はない、と告げたのだ。理由は屋敷にいた方が手勢があるからだ。緋川は勿論教師としての職と、外部の様子を探る為に学校に赴くが、それは自分だけで十分とのことだった。

その後、彼等は何故か真っ直ぐに雪弥の部屋にやってきたのだ。いや、陽だけは少し遅れ、手には幾つかの菓子の袋とゲーム機を持っていた。

「あ? 何か?」

陽達は雪弥の発言を聞いてはいなかったようで、呆けたような顔で聞き返してきた。


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