鬼神姫(仮)
「だから、何故、私の部屋なのです?」

雪弥は声を大きくして言った。

「ほら、そんな綺麗な座り方なんてしてないで、足崩せよ」

陽から返ってきたのは質問とは違う言葉だった。

──人がいるからリラックス出来ないというのに。

雪弥は正座をし、きちんと背筋を伸ばしていた。同じようにしているのは巴だけで、銀は胡座をかいて座り、陽に至っては寝転がる始末だ。

そして、その態勢のまま煎餅を食い散らかしている。

先程から畳には幾つもの菓子の食べかすが落ちていっているのだが、陽がそれを気にしている素振りは一切ない。

「……私の部屋にいる理由は?」

雪弥は目を細めて、声を低めに訊いた。これで答えなかったら追い出そう、と決めて。

「ああ、襲来があったとき、傍にいた方がいいだろ?」

だが、陽から返ってきたのは予想だにしない答えだった。

別に、仲良くする為に、だとかそんな答えを予想していたわけではない。寧ろ、理由なんて何もないのだろうくらいに思っていた。

流石は最年長者。

一番背丈は小さいが、このなかでは陽が最年長なのだ。とはいえ、一つくらいではさして上に感じることはなかった。

「まあまあ、安心しろって。俺が護ってやるからさ」

陽は屈託のない笑みを浮かべて言った。

『俺が本当に護りたいのは、主ではない。だけれど、この契りが永劫続く限り……』

脳に響く声に雪弥は目を見開いた。

「どうした?」

その様子に気付いたらしい銀に声を掛けられ、僅か一瞬、意識が飛んでいたことに気付いた。



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