鬼神姫(仮)
「へぇ、お前が?」

陽は眉根を寄せて言う。銀に至っては何を窺っているのか、先程から一言も言葉を発することをしていない。

「凪は料理の腕は確かですよ」

雪弥が捕捉するように言うと、陽はなら頼むわ、と言い、まだ痛いらしい腰を撫でた。

「じゃあ凪、後は宜しくね」

雪弥はそれだけ言うと、自室へと引き返した。

──私の知っている凪ではない。何かが違う。

雪弥は黄金色の着物に袖を通しながら一連の出来事を思い出した。それに、凪が突然此処を訪れた理由だ。

言おうとしていたのを緋川が見事に遮った。恐らく、あの場にいた全員それに気付いただろう。だから、凪も先を続けなかったのだ。

夢、と言ったいた。

ただの悪夢であるならば、わざわざ凪は此処には来ないだろう。緋川に追い返されることは目に見えてわかっているのだ。



────凪は以前はこの屋敷に身を置いていたのだ。





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