鬼神姫(仮)
それでも、何か変わった気はしなかった。

人付き合いなどというものを何も知らない雪弥に人間の友人が出来ることもなかったし、楽しいと思えることもなかった。

死へと近付く運命も現実味を帯びたものではなかった。

何もない。

鬼神姫となることは、孤独になることなのか。そんなふうに、何とも言えぬ感情すら抱いていた。

退屈とも窮屈とも違う。

強いて言うなれば、何も感じなくなっていた。

決められた定め、運命。

夫となる相手も決まっていて、人間と親しくする必要もないと言われ、ならば、何の為に生きているのか。

何れ訪れる運命。

ただ、護られていればいいと教えられていた。それが、鬼神姫なる存在なのだと。

だというのに、何も知らなかった。

番人のことも。あろうことか、鬼神姫という存在が何なのかも。

流れるように進んでいく。鬼の一族の為に番人に護られ、生き永らえ、そのまま白瀬と夫婦になり、子を成す。

それが当たり前だと感じ始めていた。

そんなとき、出会ったのだ。



──自分を知らない人間。運命が何だと言う人間。護るつもりもないと言われ、しかし、護る、と言ってくれた。


途端に、運命は色を変えて動き出したのだ。

自分の足で立ち、自分の足で進む覚悟を決めた。



けれど、凪は一体、今まで何をしていたのだろうか。何故、突然いなくなり、そして突然戻ってきたのか。



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