鬼神姫(仮)
凪に訊いたとして、彼は答えるのだろうか。
雪弥は食事を終えた後、一人で思案した。凪が突然現れた理由とは。そして、そもそも、何故突然消えたのか。
元々、緋川が凪を疎んでいるのであろうことは、幼いながら気付いていた。しかしその理由は知らない。
緋川に流れる、人間の血と何かしら関係あるのだろうか。
それは、思い過ごしというものか。
「邪魔するぞ」
銀の声が部屋に響き、雪弥の返事を待たずに彼は襖を開けた。
「何です?」
姿を現した銀を見ると、その後ろに凪が控えていた。凪は銀より少し背が高く、後ろにいても顔が見える。
「あー……、勝手についてきた」
凪を不思議そうに見ていたのか、銀がそう言った。
「姫様のお傍にいることが俺の使命ですから」
それは、緋鬼としてなのか、それとも西の番人の血のことを言っているのか。凪に対して何かを疑問に思ったことはなかった。なのに、今では疑問が湧いて出るばかりだ。
「何かご用ですか?」
雪弥は取り敢えず凪の存在は無視して銀に訊いた。すると凪は「無視ですか」と何故か悲しそうな声を上げたが、雪弥はそれに対しても無視を決め込んだ。
「運命のことなんだけどさ」
銀は雪弥の前に胡座を掻いて座った。その後ろに凪が正座をする。
「嘗て、何があったとかって、知ること出来ねぇのかな」
それは、雪弥も知りたいと思っていたことだ。
「……心当たりはありますが。貴方は?」
「俺もあるにはあるけど、教えてくれるかどうか」
「私もです」
雪弥の心当たりとは知羽のことだ。彼は、嘗ての光景もその目に写してきた存在だ。なので、誰に聞くよりも確かなのだ。
そして、銀の心当たりというのは恐らく陽のことだろう。彼もきっと、全てを知って、此処にいる。