鬼神姫(仮)
目が覚めた。
生まれた記憶は脳内を渦巻く。ぐるぐると回り、整理をしていく。雪弥は落ち着かせる為にも目を閉じた。
──葛姫の記憶。
はっきりと確信し、目を開けた。
今のは葛姫の記憶だ。それも、事の起きる前のことだ。
葛姫には、白瀬という許嫁がいた。──それは、白瀬知羽。あの者だ。今世でも己の許嫁とされている鬼。
けれど、葛姫には龍、という想い人がいた。それが何処の誰かはわからない。
花雪、とは先程凪から聞いた花神姫。景とは、陽の祖先──いや、前世だ。自分達は皆、生まれ変わりなのだ。
凪、とは誰か。龍もだ。
恐らく、番人のうちの誰かのことだろう。
同じ名前など、有り得るのか……。
雪弥は額に手を当てた。有り得るのならば、凪は、西の番人。しかし、それが酉島のことなのか。
そこまで来て、漸く肝心なことに気付いた。何故、凪からその名を聞いたときに思い至らなかったのか。失念していた。
──酉島渚。
それは雪弥の前にちょくちょく姿を現していた者ではないか。
このところ騒ぎが多くて、すっかりその名を忘れてしまっていた。
今の夢に出てきた凪というのは、誰になるのか。酉島渚か、緋川か、それとも凪なのか。
真っ当に考えれば、渚だろう。
事の首謀者も彼のはずだ。
あんなに近くにいられたなんて……。
雪弥はそれに全く気付いてはいなかった。恐らく緋川は気付いていたのだろう。
泳がせていただけなのか。それとも、白瀬の占いで出た、雪弥の誕生日までは何もないと信じているのか。
それは雪弥にはわからないところだった。