鬼神姫(仮)
「……花雪様」
その名は口から零れ落ちた。
「覚醒、したのですか?」
それに、少女が驚いたような顔を見せた。その向かいでは、蒼間も同じような顔をしている。
「え、覚醒? いや……ふと、あんたがそうなんだろうなって」
銀は何を言われているのかわからずに返した。
「そうです。私が花雪です。今は、早雪と言いますが。貴方は、龍様ですよね?」
矢継ぎ早に言われても、銀の脳はまだ何も整理出来ていなかった。だけれど、龍、というのが自分だというのだけは理解出来た。
「あの……花神姫なら、入れてもいいんでは?」
蒼間に言うと、彼は聞いたのか、と小さく言った。銀はそれに、まあ、と曖昧な返事をして、早雪へと顔を向けた。
そこでは早雪がこくこくと頷いている。
前世の面影があるようで、ない。あそこまでの奔放さは、今の彼女からはあまり感じられない。
「お願いします。陽先輩に取り次いで下さい」
入れてもいいのでは、とは言ったが、そこで素直に頷くことは出来なかった。陽は、泣きすがる彼女に一目もくれなかったのだ。そこには、理由があるようでならない。
でなければ、陽がそんなことをするはずがないのだから。
銀の知る花邑陽という男はそういう男だった。