鬼神姫(仮)
「や…………」
先程とは違う考えが渦巻く。それと同時に脳裏にはずっと、寄り添うようにしている花雪と景の姿がある。
前世で二人は結ばれたのだろうか。前世といえ、先祖。もしそうだったとしたら、この二人は親戚ということになるのではないだろうか。
早雪の瞳は、陽を愛するものだと直ぐにわかる。
遠い先祖であるならば、もう血の繋がりはないも同然なのか。なんだか、どうでもいいような考えが脳内を占めてしまい、上手く答えが出てこない。
「花神姫の命です」
銀が黙っていると、早雪は、きっ、と銀を睨んできた。先程まで潤んでいたように思う瞳は、今は強気を宿している。
「今すぐに私を花邑の元へ連れていきなさい」
命じられると、体は自分の意思とは関係なく動いた。早雪の胸の前へ掌を差し出す。まるで、そこへ手を乗せろと謂わんばかりに。
「おい」
蒼間の掛け声も虚しく、銀の体は勝手に動く。早雪は銀の掌に自分の小さな手を乗せた。細い指は強く握ったなら折れそうな程だ。
「それでいいのです」
早雪は強気な表情のまま、言った。
契約を交わしているのは鬼神姫の方ではないのか。なのに、体は早雪の命令に応じる。
銀は早雪の手を取ったまま、屋敷へと足を向けた。