鬼神姫(仮)


「わかんないんで、教えて下さいよ」

銀がなんだか、開き直ったかのような態度で言ってくるので、陽は少し戸惑ったが、それは覚醒していない証とも取れた。もし、銀が覚醒していたならば、花邑である自分にこんな態度は取れないはずだ。

彼の花神姫の許嫁である、花邑に。

「教える必要ねぇよ」

陽が吐き捨てるかのように言うと、銀はぴくりと眉を動かした。

「お前は知らないままでいい」

知ってしまえば、全てが覆される可能性がある。ならば、何も知らないままでいい。

──これは、傲慢な考えかもしれない。

陽は小さく下唇を噛んだ。協力を乞う癖に、何も知らなくていいと言う。手の内は明かさない。

それはまるで、嘗ての番人達と同じだった。

「あの……無視しないで下さい」

微かに緊迫した空気が流れるなか、早雪が半ば怒ったかのような声を出した。

「お前は黙ってろ」

陽が強い口調で言うと、早雪は一瞬怯んだような表情を見せたが、直ぐに強気な瞳を向けてきた。大きな栗色の瞳が確りと陽を捉えている。

「……命じます。花邑、総てを話なさい」

早雪の声であって、早雪の声でなかった。

彼の花神姫、花雪姫の声が早雪の声に被さった。


どんなに彼女から逃げても、どんなに彼女を相手にしなくても、彼女はその力を使ったことはなかった。一言命じれば、相手の全てが思うがままになるというのに、それを使ったことはなかった。

だというのに、今、早雪は初めて陽に対してその力を使ったのだ。

それ程までに納得出来ていないということか。



< 160 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop