鬼神姫(仮)
「白瀬様の元へ連れていきなさい」
雪弥の耳には聞き慣れない声が響いた。
つい先程、小さな騒ぎを感じて部屋から出ると、銀と出会した。銀に何があったのか聞いてはみたが、濁すばかりではっきりとしなかった。
正確に言えば、濁すというより、銀自体、騒ぎの全貌を把握していないといったところだった。
雪弥は銀が止めるのも聞かずに、騒ぎのする方へと足を向けた。それは陽の部屋の辺りからだった。
部屋へと着く少し前、緋川がそこへと入っていくのが見えた。やはり、騒ぎが起きているのさ陽の部屋で間違いはないようだった。
部屋の手前まで足を運んだとき、その声が聞こえたのだ。
鈴を鳴らしたような、けれど凛とした声。聞き慣れないと思いながらも、同時に懐かしさを感じた。
「……白瀬様が貴女にお会いになるとでも?」
緋川の低い声がした。
「何の騒ぎです?」
雪弥は陽の部屋を覗きながら誰にともなく声を掛けた。すると、一番最初に視界に飛び込んできたのは、長い栗色の髪をした少女だった。
しかし、少女と呼ぶには神々しいまでの雰囲気を纏っている。
「葛姫……」
少女は雪弥を見るなり、呟くようにその名を呼んだ。その刹那、雪弥の胸は大きくざわついた。
「彼女は、雪弥様です」
緋川が訂正するかのように少女へと顔を向けた。