鬼神姫(仮)


「知羽様の占いでは雪弥様が十七歳の誕生日に命を落とすというもの。しかしそれは、酉嶋の仕業だとは限定出来ていないんですよね?」

そのことに雪弥は驚いた。しかし、と思う。

確かに知羽からこの話を聞いたとき、知羽は誰の手によって、とは言わなかった。ただ、漠然と、十七の生まれ日に命が尽きる、と言っただけだ。

「そうだ。緋鬼共が勝手に言っているだけだ」

それは厳密に言えば勝手に、というわけではない。度重なる襲撃。そこから嘗ての西の番人の気配を蒼間と此処にいる知羽が嗅ぎ取り、雪弥の命を狙うのは西の番人であると決定付けられたのだ。

「お前はまた、酉嶋を庇うのか」
「またとは心外です」

早雪は立ち上がり、陽の隣に腰を下ろした。彼の傍にいたい、というのを強く感じた。けれど陽はそれに戸惑っているように見える。

「ただ、酉嶋が雪弥様の命を落とすという確証は何処にもないはずです」
「でも、前世でこいつを殺したのは、その西の番人なんだろ?」

漸く銀が口を開いた。

それに早雪が驚いたような顔をする。

「ああ、そういえば、そうでしたね」

砕けたような口調であるが、早雪から威厳は消えていない。嘗ての花雪姫もそうだった、と雪弥の中の者が言った。

これは、葛姫のものだろう、と雪弥は自然に受け入れられるようになっていた。

花雪はいつも、葛を見付けると満面の笑みを浮かべた。可愛らしい、女性らしい笑顔。そしてその隣には、二人の男が付き従っていた。

一人は自分の愛する者、もう一人は花雪が愛する者。

四人で過ごす時間はとても穏やかなものだった。



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