鬼神姫(仮)
「納得出来ぬ気持ちも解ります。契りを交わしたのはそなたらの先祖であり、そなたらではない」
雪弥が紡いだ言葉は銀が常々思っていたことだった。
幼い日、己に宿る不思議な能力について両親に尋ねたところ、自分が「鬼神姫」という存在の番人であると聞かされた。理解出来なかった。太古の昔に霧原家の先祖が勝手に交わした契り。それを何故、悠久の刻が経った今まで守らねばならぬのかと。
両親もそれでいいと笑った。
父親は自分程力はなかったが、それでもやはり普通とは何処か違っていた。それでも、番人であることを自覚したことも実感したこともないと言っていた。
もう今の世には必要のない存在。
「鬼神姫」が何者であるかも判らない。ただの、言い伝えのようなもの。そう教えられた。
でも、違っていた。
目の前にはその「鬼神姫」が確かにいるのだから。