鬼神姫(仮)
第二章
「本当に頼りなさそうなこと」
緋川が雪弥の手を離すと同時に、煩わしそうに口を開いた。その顔はあの二人を歓迎しているものではない。
「……そんなことを言っては駄目です」
雪弥は呟くような声で緋川を小さくたしなめる。それでも緋川はその表情を変えることはしなかった。
「雪弥様。貴女は決して死んではならぬ方です。私が如何様にしても、あの二人を此に留まらせましょう」
ーーそんなこと。
雪弥は何とも言えぬ気持ちになった。
何度も当たり前だと言い聞かされた。番人の存在は鬼神姫の為だけにあるもの。そう思ってきた。
それでも、銀の睨み付けるかのような視線を思い出すと、そうとは頷けない。
「雪弥様は何も気にせずにいて下さいませ」
緋川は漸く美しい顔に笑みを携えた。
私が死ねば鬼の血族は破滅の一途を辿る。それは理解していた。
子孫がいないからではない。それなら、そのときまでに子を成せば済むこと。
そんなことではないのだ。