鬼神姫(仮)
浅黄という鬼は何も言わずに銀と陽の前を歩いている。そういえば、この鬼だけは銀に何も言ってこなかった。
緋川という鬼と蒼間という鬼とは違うのだろうか。それとも口でもきけないのか。銀は自分より遥かに逞しい浅黄の背中を見た。
「此処がお前達の部屋だ」
浅黄は縁側に面した襖の前で足を止めた。どうやら口がきけないわけではないようだ。
外はいつの間にか闇に支配されていて、今宵は月もない。空は濃い群青色で彩られ、僅かに小さな星が光っているのみ。
君の悪い夜。
銀は浅黄にちらりと視線を向けた。
先程の部屋でもよく顔は見えなかったが、此処も明るさはないのではっきりとは見えない。しかし、整ってはいるようだ。
ーー鬼というのはどいつもこいつも美形なのか。
銀は緋川と蒼間の顔を思い出しながらそんなことを思った。
「同じ部屋か?」
浅黄に陽が質問をする。