鬼神姫(仮)



風が強く吹き抜ける。

休み時間も終わりに近付いた屋上には誰もいない。雪弥はそこでそっと制服の袖を捲った。

右の二の腕に深く刻まれた印。これが現れたのは三ヶ月前。それと同時に不可思議なことばかりが起きる。否、不可思議なことなどではない。

身に覚えはある。

雪弥は溜め息を吐いてから袖を元に戻した。秋が近付く。それと共に誕生日も近付く。――十七歳の誕生日が。

「お前、誰だ?」

不意に掛かる声に雪弥は思い切り振り返った。
そこにいたのは明るい茶髪をした、目付きの悪い男。狭い学校だというのに彼に見覚えはなかった。

そして、彼も雪弥のことを知らないようだ。

「……私を知らないのですか?」

雪弥はそのことに首を傾げた。それに合わせて風が吹き、雪弥の長い髪を揺らす。



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