鬼神姫(仮)
空には白い雲が僅かに浮いているが、殆ど晴れ模様だ。穏やかな風が頬を撫で、二人の間に舞う。
男の校章は自分と同じ二年のもの。だが二年には二クラスしかなく、同級生の顔は皆知っていた。だが、彼の顔に覚えはない。
「何でお前を知らないことをそんなに不思議がられなきゃなんないのかは解らないが、俺は昨日転校してきたばかりなんだよ」
男は茶髪頭を掻きながら言った。
それなら自分を知らなくとも納得だ。雪弥は一度頷いてから彼の横をすり抜けた。もう直ぐ授業が始まるし、教室には酉嶋もいないだろう。
「おいっ。銀っ」
雪弥が階段へと続く扉を開けた瞬間、いきなり人が飛び込んできた。
「きゃっ」
雪弥はそれに弾き飛ばされ、勢いよく尻餅をついた。思わぬことに身体が避けるという反応をしなかったのだ。