think about you あの日の香りとすれ違うだけで溢れ出してしまう記憶がある
about

コンパのお誘い


「暑い。」

あれから、1年経っても、2年経っても、ぐっちゃんは帰らなかった。

マーの情報だと、1年程度らしかったのだか、延長だそうだ。

もちろん、出向先での評価が高いから、延長されているのだ。

やはり、マーとは違う。ぐっちゃんはデキル男なんだろう。

マーは、中途採用で、ぐっちゃんは4大卒。

上に行くための人だ。

私も肩を並べて恥ずかしくないように、仕事で結果出さなくちゃ。

出向か…。

正直、羨ましいというか。悔しい。

独身寮しかないので、女の私には逆立ちしたってできないこと。

研修の時だって、ぐっちゃんは女の子研修だと鼻で笑ったのだ。

いつだって、私を女扱いする。

もしくは、私がぐっちゃんの前で女になってしまっているのか。

自分でもイタイくらい恥ずかしくなった。

どうでもいい男なら、ベットまで誘えるのに。

本命にはブリッコしてしまうなんて、とんだヘタレだな。

私ってこんなにも奥手だったのか。

私ってこんなにもネガティブだったのか。

ぐっちゃんのこととなると、今まで気づきもしなかった自分が見えてくる。

それは更に、誰にも知られたくないような惨めな姿ばかりだ。

こんなの嫌われちゃう。

隠そうとすればするほど、ぐっちゃんに連絡することも出来なくなっていく。

あっという間に疎遠になった。

どう修復していいのか分からないでいると、ある平日の午後。

電話が鳴った。

「もしもし?あのさー、コンパしてよ。」

「…はぁ。あのー…、…私。仕事中ですが…。」

ぐっちゃんの突然なコンタクトにたじたじになってしまう。

久しぶりの声。

夢にまで見た声。

もう顔が見たい。

早く会いたい。

今から、会いに…。

…え?

コンパ?…って…聞こえたような…。

「てかさ、私彼氏いるし!友達もフリーなのいないよ。」

「だから、幸せのおすそ分け。してよ。」

「…っ!…えと、…先輩にも一件頼まれてるから!…だから。…そっちしてからで…。」

「…先輩って。なんだよそれー!…俺が優先でしょ?」

カラダの芯からジーンとした振動がある。

持っていた携帯電話にぐうっと力を込める。

カアッと顔が熱くなる。

目を閉じて一呼吸する。

ダメだ。

出た。俺様。

もう、敵わないな。

コイツは、私が、断れないのを知ってる。

更に、私が、押しに弱いことも知ってる。

ヤバイ。メロメロだ、私。

「…わかりました。」

電話を切ると深い長いため息。

思わず机に突っ伏してしまう。

…あぁ。なんて残酷な人。

私がいるんだからいいじゃない。

どうして彼女なんてつくるの?

ふと、思いつく。

顔をあげて天井を見やる。

(…そうだ。…誰か当てがって筆下ろしさせよう。

脱童貞でメデタシじゃないか!)

名案だとニヤけて、片っ端からメールを送信。

件名は“コンパのお誘い”だ。
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