think about you あの日の香りとすれ違うだけで溢れ出してしまう記憶がある

自覚した甘い感覚(穂高先生)

(びっくりした。なんで急に?)

ぐっちゃんに対して、ものすごい異性を感じて焦った。

心臓がぐうっとしめつけられて、のどのずうっと奥が閉ざされて開かない。

(キスしたかったのかな。ただの自慢?)

彼の男っぽい肩を思い出して、改めて男だったんだと思い知らされた。

私の目線からは彼の顔は見えない。

いつも、ガッシリした肩があった。

(私の隣には、いつも、あの肩が、、、。)

次の瞬間、お腹とも背中とも言いがたい身体の中心に、

ジーンとした痺れるような感覚。

(うわ!……キタ。これは、マズイ!!!)

久々のその感覚。23歳、すでに処女でもない私は、コレが何かハッキリと自覚できる。

何とかしなくては。早急に手を打たねば。

焦る気持ちと共に、歩く速度も増して行った。

こんなにも動揺しているというのに、思考は冷静で、

自らの感覚に危険予知し、安全対策を考案中だ。

我ながら、男らしいというか、職業病というか。

とても論理的で、技術者ッポイ。


私は、同じ過ちを繰り返さない。

のではなく、同じ過ちを繰り返すことが大キライだ。

大学生時代に、塾のバイト先で知り合った一個下の後輩と、

一回だけ寝たことがあった。

ある夏の夜。

私にとっては、内定が出て解放的になっていたし、

酒の力も加わって、勢いだけでやってしまった。

結果はひどかった。

体の相性が悪いと付き合えない私。

彼には本当に申し訳ないが、一晩限りにさせてもらおうと思った。

ところが、その冬。忘年会で顔を合わせた彼は、

集合場所で車を降りた私に詰め寄ってきた。

「中西先生…!」

「穂高先生?!何?…」

車の間に連れ込まれ、ぎゅうっとキツく抱きしめられる。

この感覚は悪くないし、顔はまあまあだけど、背は高くてオシャレで、

彼氏としては申し分ない。

ただし、肉体関係を除く…。

勿体無いなぁと、改めて思う。

「…どうして?!…どうして彼氏なんか作るんスか?!」

絞り出すような小さな声で私を問い詰める。

「え?…ちょっと!みんなに見られたらマズイって!」

体裁を気にする私とは反対に、彼はそれどころではない様子。

全く放してくれそうにない。

仕方ない。

厳しいようだけど、ハッキリした態度を取ろう。

「私の幸せを、……喜んでくれたって、いいじゃない!!!…」

腕の力が抜ける。

その瞬間、彼から逃れると腕を組んで、忘年会場に連れて行った。

彼は、終始納得がいかない様子で私を見ていた。

もちろんその後は、気まずくて疎遠になってしまった。



こんな黒歴史からの教訓。

同僚に手を出してはならない。

恋愛のマイルールだ。

ぐっちゃんは、同期だ。かけがえのない同期だ。

絶対に手を出すものか。

私は、自覚したこの甘い感覚を、全力ですっとぼけようと心に誓った。





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