think about you あの日の香りとすれ違うだけで溢れ出してしまう記憶がある

誕生日とエスカーダ

問題発生。

なんと、私のアプローチに先輩が応えてきた。

どうしよう。なんて、思わなかった。

だってもうすぐ夏がくるんだ。

大好きな海に行きたい。

夏生まれの私にとって、この季節は落ち着かないほどに

ウズウズしてしまう。

目一杯楽しむためには男が必要だ。

誕生日をお祝いして、プレゼントを買ってくれる相手が必要だ。

私は、こんな理由で夏前に男を作ることが多かった。



「中西さんは、もうすぐ誕生日だね。」

ぐっちゃんが声をかけてきた。

SUMMER バケーションで頭がいっぱいだった私。

しばらく沈静化していたのに、また刺激にきたのか。

少し構えてから応える。

「そうだね。プレゼントくれる?」

「いいよ。何が欲しい?」

「エスカーダ。っていう香水がいいな。シリーズで持ってるの。」

「わかった。」

土曜日に食事の約束をした。

別にデートなんて程じゃないけど、ぐっちゃんはいつもジムの後スパに行って

ポールスミスのジャケットにデニムといった格好でくる。

お店は名古屋の鍋料理かトンカツだ。

そこそこのコーデで行かないとケチをつけられる。

前はビトンのカバンでは固すぎるかと思って、テキトーな手提げでいったら、

「カバンがへんだけど…。」

って言われた。

7月の第二週を待って、PARCOに走りバイオレットハンガーのトートを即買いした。

ヒールはダイアナ。ワンピースはセシルでGET。

絶対に文句は言わせない、鉄壁の防御に身を包んだ。

こんなに気合いをいれて男に会うことはなかった。

だって男よりも女に会う方が力が入る。

女子会なんて、アイテムがバレてるとこからの勝負。

色合いをどうするか。メイクをいつもより丁寧に。ネイルも。

そこいくと男なんて、大体見てない。

なんとなくふんわり髪を巻いておけば、それで満足そうだ。

みんな、いつもよりカワイーとか言い出す。

ぐっちゃんと会う時だけは、女子会並に手間暇かけてめかし込んだ。

ぐっちゃんの誕生日は5月11日。

いまでもハッキリと記憶している。

毎年よく覚えてるね。なんて驚かれるけど。

私にとって特別な人の特別な日。

忘れるわけがない。

工学部出てて数字にも強い。11桁までなら暗記できる。

馬鹿だと思われてる?

イヤ、そういう問題じゃないか…。

その年は、他の同期と一緒にエナメルのスポーツバックをプレゼントしていた。

もちろん、ボクシング用に。

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