think about you あの日の香りとすれ違うだけで溢れ出してしまう記憶がある
伊藤泰三。B型。三人兄弟の長男。身長182cm。
色白で根暗。オタク。マザコン。専門学生。
中西愛子。O型。三人兄弟の長女。身長155cm。
出かけるのが大好きで、飲酒喫煙当たり前。4大生。
こんな対照的な私たちが付き合ってもうまく行くはずはなかった。
それでも信じて見たかった。
二人が高校時代に付き合っていた事実と。
変わらない、この胸の高鳴りと。
なによりも、やっぱり彼を愛しているんだということを。
そばにいたいと切に願う気持ちを。
彼になら、たとえダマされたって構わないと思っていた。
高校時代にうまくいかなかった理由は明確だ。
もう既に処女でもない私になら、彼の全てを欲求ごと受け止めることができる。
したくてもできなかったことを、一つずつ埋めて行けばいいのだ。
彼と二人で、寄り添って歩んで行けばいい。
そう思っていたのに。
大学3回生の春。
彼は卒業し、地元のうどん屋で勤め始めた。
うどん屋…?
正直、何それ?と思った。
仕事って、エンジニアとか、プログラマーとか、公務員とか、営業マンとか…。
職業自由な世の中で、うどん屋って…。
ホワイトカラー、ブルーカラー以前の問題だ。
就活も経験していない私には、受け入れ難い現実だった。
事実、彼にとっても自慢できるものではなく、店の場所すら教えてくれなかった。
そして、3ヶ月と持たず、仕事を辞めてしまった。
(ニートになった。)
毎日家に引きこもり、高校生の弟とサッカーをして、お母さんの手料理を食べる。
車はいらないらしい。お母さんのがあるから。
出かけないらしい。面倒だから。
外食しないらしい。お金が勿体無いから。
私はそんな関係に退屈し、不平不満を口にするようになった。
家から家へ送ってもらう帰り道、車内で怒鳴られた。
「…降りろっ!!!!」
最悪な気分だった。悲しくもなかった。
もう私の中に彼は、いなかった。
その夜に少しだけ泣いて、彼との別離を自覚した。
(もうダメなんだ。修復できる気がしない。)
暗い絶望感に覆われて、眠りに落ちた。
しばらくしたある日、彼から別れを告げられた。
メールで。
『メールを返信しなくてごめんね。
でも、愛ちゃんが思うようには会えないし、
それを我慢できないなら、もうダメだよ。』
すごく傷ついたのか、10年経っても忘れられない記憶になった。
私の8年かけた片思いがようやく終わり、
呪いが解けたように明るい空を見上げた。
(童貞はダメだ。ソレばっかになるし、ソレが済んだら100年の愛も冷めるんだ。)
童貞は見極めるのが困難である。
初回でずっしりと体重をかけてきて、ゴムをつけるのに手間取ったら100%黒。
でも、それは事後であって事前じゃない。
やって見なくちゃわからない。
しかし、童貞はやったら終わりだし、素材が悪かったら…。
我慢できず別れてしまう。
もし、ぐっちゃんが童貞なら、なおさらヤルわけにはいかない。
いや、付き合ってはいけない。
心も体も全力で甘えたい衝動を抑え、さっきからふつふつと湧いてくる
肌に触れたい欲望をかみ殺した。
(これ以上酔うとマズい。酔った勢いだけでもいけそうだ。)
欲求不満を解消しなくては。
ふと、脳裏に丹羽誠さんの顔がよぎる。
(背に腹は変えられないな。)
ぐっちゃんにホワイトのBMWで家まで送ってもらい、
『楽しかった。ありがとう。また行こうね。』
の、フォローのメールを送ると、
丹羽誠さんを海に誘った。