ヘビロテ躁鬱女
 酔いが回りそうになる分析を止め、女子トイレの入り口に急いで出て、壁に寄り掛かった。


まだ鉄平は席に着いていない。


和歌子の後姿は、まだこちらの存在には気づいていなかった。


鉄平に訊ねたい……でも怖い。


いつ発見されるのか、分らないのを承知で和歌子を遠くから見つめた。


その背中は見慣れた鞄から手鏡を取り出し、ピンクのグロスをそっと引いた。前髪の方向も仕切りに気にしている。


――それで確信した。和歌子は鉄平を好きだったんだと。


「おお! びっくりした! 狂子さん、なにをしているの!?」


「……鉄平、どうして?」


――取られたくない。


酔いに任せて彼の腕を掴んだ。
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