ヘビロテ躁鬱女
 鉄平は真っ直ぐ私の瞳をみつめ、ふっと、笑った。とても優しい微笑だった。


時が止まったように見つめ返す。その穏やかな瞳をずっと見ていたかった。


――譲りたくない。


「これ、運んじゃうね」


広い背中を見せ、踵を返しキッチンへ歩いて行った。鉄平が持つと食器も軽そうだった。


年下なのに、ああいう所が男っぽくて頼もしい。


――忘れたはずなのに。忘れなきゃいけないのに……


揺さぶっているのは私じゃなくて、鉄平だよ。
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