ヘビロテ躁鬱女
 本当は顔を近づけ、キスがしたかったんだけど、入り口の外が騒がしい。


怒鳴る輝さんの声がした。


上司のお祝いの席で水を差すような浮気現場……そんな状況は絶対に晒すわけにはいかない。


自らの唇に人差し指を置き、そっと静寂を諭した。


背中に回された両手の温かみが消えたのは残念だけど、手の平を強く握り締めてくれた。


――それって……俺たち、やっぱり両想いだったってことだよね?


遠ざかる足音に耳を澄ませ、もう一度和歌子への別れを決心した。
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