ヘビロテ躁鬱女
 その声を無視し、お猪口にお酒を注いだ。プーンと鼻に突く匂いに、私の咽はゴクリと反応する。


――飲めば、なにもかも忘れられるのに……。


父がグイッと日本酒を胃に流し込むのを見つめ、また台所へと戻った。


「つまみの枝豆とお刺身、あと醤油と小皿を持って行って」


言われた通りに銀のお盆に載せていく。いつもこんな調子で往復した。


居間へ戻るたびに見たくないのに鬼黄泉の笑顔を確認してしまう。


笑い声の中、私はしゃがみ、テーブルに醤油、枝豆、お刺身、4枚重ねられた醤油皿を続けて置いた。


「なんだそれは! 狂子! 汚いじゃないか! なにを考えているんだ!」


「えっ……なに? お父さん」
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