萬処御伽屋覚書〜着物男子と残念女子のゆるゆる繁盛記〜
のれんをくぐり、お店の中に入ると目を見張った。

暖色の間接照明に照らし出された彩り鮮やかな数々の器や、天井に届く程の高い書架にびっしりと並んだ和綴の古書。

更に奥を覗くと反物が詰まった棚に、掛け軸でも入っていそうな桐箱が大きな甕に何本も刺さっているのが見えた。


−−骨董屋さんなんだ。


私は店の奥、商品の並ぶ場所から一段高くなっている所へ促された。

腰掛けるのにちょうどいい高さ。

そこは畳敷きで、四畳半程の広さを横長にした空間になっていた。

ガラスケースの奥にレジの載った文机。
その先は住居が続いているのか、入り口にあったのと同じのれんが下げられた、格子がはめられた引き戸が見えた。


「お茶の用意をしてきますから、そこにかけてて下さい。」


段を上がりながら彼は言った。
のれんを上げて店の奥に行きかけてふと、何かを思い出したかのように私の方へ振り向いた。


「商品が濡れると困りますから、店内はうろうろしないでくださいね」


何だろう……この人初対面なのにちょいちょいさっきから毒舌だな。

笑顔で言ってくるのがまた怖い。
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