萬処御伽屋覚書〜着物男子と残念女子のゆるゆる繁盛記〜
照明や沢山の骨董品が、彼のまとう空気に重なり、一つの絵のように美しかった。


少しの間沈黙があり、彼が話しを切り出した。


「いい歳した大人が、あんなに盛大に泣いてるのなんて久しぶりに見ましたよ」


冷静に状況を説明されると恥ずかしい……。
私は「はぁ」と相槌を打って流すのがやっとだった。


「往来で泣いてしまうほど辛いことでもあったんですか?」

「あ……いや、辛いというか。ちょっと、疲れてしまってというか」


何だか改めて聞かれると、どうして泣いてしまったのか自分でも分からなくなってしまう。
それとも、泣いてスッキリしたから分からないのか。

でも、そんな状況で折角手を差し伸べてくれた人に、店に入ってまで言葉を濁すのも失礼な気がして、私は今日までのことを彼に打ち明けた。


話しながら思った。
ここ最近の自分の生活は、冷静に考えても可哀想かもしれないと。

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