萬処御伽屋覚書〜着物男子と残念女子のゆるゆる繁盛記〜
まぁ、現実はそんなにおキレイな展開にはさせてくれないんだけどね。



上司はびっくりするほどあっさりと辞表を受けとって、
これまたびっくりするほどスピーディーに人事部に話を通してくれた。


そんなに手早く仕事が出来るなら
一々こっちに業務を無駄に振る必要なかったんじゃないの?


私が業務に埋もれてるのに気にも留めないで、
鼻の下を伸ばしながら老眼鏡をかけて日がな新聞読んでばっかりだったくせに。


そんな上司がハゲ散らかって頭皮のテカりが見え隠れする頭を掻きながら
物ぐさそうに私に言った。
たった今見せた俊敏さはどこへ行った。


「手続きとか雇用法とかで三ヶ月くらいまだいるんでしょ?
引き継ぎ、やっといてね。えーっと……今井さんだっけ。」




今田です。



私は今田京子です!!!



私、この会社に勤めて十年。
この部署には五年いたのですが……


「承知しました」


私は流すことにした。
もう、どうせ辞めちゃうんだ。
今更名前なんてどうだっていい。



その日から三ヶ月、私は隣の席にいた後輩に仕事を引き継ぎ、
他部署のお世話になった方々へのご挨拶、
同期への挨拶で最後の最後に割と充実の三ヶ月を過ごしてしまった。


ただ忘れない。

マニュアルまで作って引き継ぎをお願いした時の
後輩の舌打ち。


あから様過ぎて、いっそ清々しかった。
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