【完】春紫苑
一度だけ。
一度だけ、振り向いても良いかな?
走る足を止め、振り返り
人で溢れる道で将光を探す。
なかなか見つからず、不安になって
「将光っっ!!!」
貴方の名前を呼んでみる。
「美琴、走れっ!ぜってー振り返るんじゃねーぞっ!!」
そんな声がはっきりと聞こえた。
人混みから、微かに将光が見えた。
貴方は何故か、悲しそうに怒っていた。
私の目が悪ければ、こんな顔見らずにすんだのに…。
振り向いたことを少しだけ後悔して、私はまた彼に背を向けて、走り出した。