暗闇の鎌【読みきり短編集】
「たっくんもそろそろ学校に行かないとね。準備しなさい」


ママはお皿を片付けはじめ、さっきの笑顔は嘘のように消えていた。


「ねぇ……ママ。あのおじさん、パパになってくれるの? そうすればママは寂しくないよね?」

「……そうね。でも人の心は簡単にいかないものなのよ」


お盆にのせた洗い物を流し台に持っていくと、ママは僕に背中を向け、水道の蛇口をひねった。ジャージャーと流れる水の音に負けずに、さっきよりも大きな声を出した。


「そうなの? ……ママ、どうすればおじさんはパパになってくれるの? どうすればママ喜ぶ? 僕、ママを幸せにしたいよ」


「そうなったら嬉しいけど……そうねぇ、たっくんの笑顔におじさんは凄く喜んでいたから、たっくんがいつでも笑顔だったらパパになってくれるかもね」


「そっか! じゃあ僕、毎日いい子で笑顔でいるよ! あのおじさん大好き! ケーキのお返しをしなくっちゃ!」


「たっくん、それは良い考えね! ……あっ……たっくん……!!!!」
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