暗闇の鎌【読みきり短編集】
「う、うるせーな目玉野郎……ふ、風呂は諦めよう。し、仕事に行こう……」


低音なのに透き通るような、今にも消えてしまいそうな声色。耳にこびり付き、頭で勝手にリピートしていた。まるで脳味噌に幽霊の声を録音してしまったかのようだった。


異様な化け物に思考を奪われた俺は、仕事もはかどるはずもなく、苦虫を噛み潰し、またあのアパートへ舞い戻った。


「金がないから、すぐに引っ越せねぇし……くっそ、どうしたらいいんだ……」


良いアイデアはないかと、一日中目玉を思い浮かべ、ぐるぐると思考を回転させてみたが、閃くアイデアは金の掛かることばかりだった。


――なぜ俺だけこんな目に遭うんだ。これから目玉野郎と一緒に暮らさなきゃならないのかよ!
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