暗闇の鎌【読みきり短編集】
 辺りをキョロキョロと見渡した。


彼の気配はまだ感じられないし、アスファルトにも人はいず、道路には車がたまに行き来しているだけでとても静かだった。


――今なら人もあまりいないし……


マスカラの先端をそっと鼻に近づけた。匂いを嗅いでみたりもしたが、特になにも問題はなさそうだった。どちらかというと普段使っているマスカラの方がキツイ香りだった。


――ええっーい! 試してみようっと。こんな物でも眼が大きくなるならやってみる価値はあるよね。神頼み神頼みっと……。


そう意気込むと、もう一度ショーウインドウへ体を向けた。眼を大きく見開き、根元から素早く上下にまつ毛を染める。


――結構良い感じ?
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